
映画レビュー「EMILY YOUNG/KISS OF LIFE」:
intoxicate vol.53 Dec. 2004
エミリー・ヤング
すばらしい感性、音楽的な時間の旅
久しぶりに素晴しい映画と出会った。エミリー・ヤング監督作品「Kiss of Life」。イギリス生まれ、現在34才の若き女性監督の長編映画第1作目にあたる本作は、日常生活における家族の死というよくあるテーマを扱いながらも、単なるファンタジーやラブストーリーとは明らかに一線を引く映画だ。
ヤングは、エジンバラ大学、ペンシルバニア大学を卒業後、ポーランド国立映画学校に入学する。「子供の頃から様々な本、ロシア文学や、もちろんシェークスピアも読んでいたんだけど、とにかくやってみようと思ってこの道を選んだのよ。学校は、ウッジという町にあったんだけれども、映画を観ることと友人達と会話をかわすこと以外何もすることがなかったわ。おかげで、イギリスでは決して観ることができないような東ヨーロッパ圏の映画をたくさん観ることができたの。」
90年代のIT革命によって、現在では、情報の共有が容易になったように思える。しかしながら、旧共産圏と資本主義国家圏といった社会構造の異なる世界間では、今だに多くの相違点があるのも事実だ。このお互いの特異性は、時として価値観の異なる文化に「驚き」をあたえたり、あるいは、受け入れがたいものであれば「拒絶」をもたらす。そして、2つの世界の間で取り交わされるコミュニケーションの過程で、「驚き」や「拒絶」は「日常」の一部へと徐々に姿を変えていく。これは「時間」によってもたらされる。
「<エジプトのヘレン>や<チベット死者の書>は読んだわ。でも死というものの表現というより、家族の死を通して、彼らの中でなにが起きているかということを映像で表現したかったの。」人が死んでから、本当に最後の別れになるまでの「時間」の流れをシンプルな編集テクニックのみで見事に表現したヤング。近年、ビジュアル面での技術の発展で、その面ばかりが取りざたされているが、時間の感覚を真摯に表現している映画はそう多くはない。この映画は、そういう意味で貴重な体験のできる映画だ。
舞台となっているのは、ロンドンとバルカン紛争後のボスニア/クロアチアで、映し出されたバルカン紛争によって荒廃した大地は、まさにさまよう死の象徴の様だ。「ロバート・フランクやナン・ゴールディン、そして、ロシアを旅する写真集、Winterreiseで知られるルック・ドゥライェの写真には影響を受けたわ。」
ヤングの作品の背景には、旧共産圏の文化が築き上げてきた表現手法/感性が見えかくれしている。それは、ヤングが体験した「驚き」であり、この作品によって昇華されたといっても良いだろう。「Kiss of Life」の中には、とても繊細で音楽的とも言える「時間」が流れている。間違いなく★★★★★だ。
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